麦の穂をゆらす風 プレミアム・エディション [DVD]

虐げられたアイルランドの血塗られた悲史を、歴史上の英雄の観点からではなく、抗争に巻き込まれていった名もない市井の人々の視点から淡々と描ききった骨太な作品。鑑賞中は涙と嘆息、激しい心の痛みに襲われるだろうし、ラストは救いがない重いものだから、気軽な感じでの鑑賞はお薦めしない。観るにはそれなりの覚悟が必要だ。それにしても主演のキリアン・マーフィの演技は凄い!彼の前作、「プルートで朝食」のキトゥン役と今作の彼はまるで別人。プルート…では女装したゲイの役だったから声から仕草からみんな女らしく、可愛かった。私は初めてキリアンを知ったのがプルート…だったから、ゲイ役の印象しかなかったので、今作でのダミアン役で、彼が過激で男らしい思想家を演じているのにほんと度胆をぬかれた。知的で、繊細で、情熱的な悲劇の主人公役を完璧に演じていた。彼が、裏切りを犯した幼なじみを止むを得ず射殺するシーンでみせる身を裂かれるような苦悩の表情や、敵側になってしまった兄から受けた最後の尋問で、情報提供を拒んだ時の死を覚悟したまなざしの静謐さは、心に焼き付いて離れない。アイルランドについて詳しい知識か皆無でも、その内戦がいかに悲惨なもので多くの罪なき人々を傷つけてきたのかが、苦しいくらい体感できる映画だった。キリアン自身もアイルランド出身で、ロケ地の近くに生家があるらしい。誰にでもお薦めはできないが、アイルランドの歴史に興味のある方は必見。美しく、哀しく、そして感動的な傑作。 麦の穂をゆらす風 プレミアム・エディション [DVD] 関連情報

麦の穂をゆらす風 [レンタル落ち]

恐らく色んな人が色んな事を思う映画。でもそのどれがホントに正解か分からない。この映画に出てくる人たちと変わらず、私たちも口々に違った意見をただ繰り返すだけになりそうな。バックグラウンドを語ってくれる人がいないとまともな感想１つ持てない気がします。今はどうか。私はしばらくロンドンに住みましたが、アイリッシュの好青年がロンドンに出て菓子修業をし、立派なホテルのスイーツ職人になっていました。それが私の様な東洋人と友人で、一緒にお酒を飲んだり食べたり喋ったり。調度100年前の1920年のこの映画の中の人からすると、ベルリンの壁崩壊よりびっくりな事実だと思う。では英国人は変わったのか、100年の間に？二次大戦の後、ごく近い最近でさえベルファースト等で丸腰の市民を英国国軍が多数撃ち殺していました。それら兵士に現エリザベス女王が勲章を授けたりしている映像が世界に流れて。それが事実。ゲリラのリーダーや専制君主の暴君が、結局亡くなったから和平が出来た事実は山ほどあります。「死ななきゃ直らない」的な。先のアイリッシュ青年がロンドンに来れる様な世の中になったのも、要は二次大戦で英国はすっからかんにお金がなくなり弱体化したからだけでしょう。暴力おやじが病弱になったから無害化しただけで。世界は進歩なんてしていないのだと、今だって感じます。紛争。始めるのは至って簡単な様。難しいのは紛争を辞める事です。紛争調停能力を身に着ける方が遥かに難しい。この映画の様に、当事者同士、二者では話は並行線です。ケン・ローチ監督はこの「いつまでも当事者同士では並行線」を見せ続けている映画とも言えます。そこに必要な、第三者がいなければ両者は金輪際和平しない。第三者の存在こそが必要だと、見えないものが解答でもありそうです。しかし、それほど紛争調停能力は難しいと知っている勢力があると思えます。巧みに憎み合う様に仕向け、始めたら終われない状況に誘おうとする勢力。これが紛争の芯だったりしませんか。主義をふっかけ、他方には別の主張を持たせる。意義と価値観を宣伝する。そうやって次第に人の考え方を変えて行く。そして火種を作る。誰かは笑っている仕組み。一市民には見えない。これに「憎み合わそうとしてもダメ！」というアイデアで対抗出来れば、調停能力など無理な物を身に着けるより遥かに紛争の防止になります。私はそう感じます。誰かを悪者にする情報にご用心。それが賢明な気がします。この映画から私が学べた事はそれな気がします。 麦の穂をゆらす風 [レンタル落ち] 関連情報

ジミー、野を駆ける伝説 [DVD]

　初見の人にとって当時のアイルランド事情は込み入っていて難しいかもしれませんが厳粛すぎて人間性を圧迫しかねないカトリック教が根深いアイルランドで、歌とダンスを嗜み主義主張を超えて、人生を楽しく生きることを訴えたジミーの姿はまるでチャップリンの「独裁者」の床屋の演説並に感動的です。　昨今、過酷な勤務時間やブラック企業などの問題が指摘されている日本に一石を投じる作品だと確信します。　　 ジミー、野を駆ける伝説 [DVD] 関連情報

1920年、緑深きアイルランド。医師になる将来を捨�