寮美千子 ランキング!

寮美千子 空が青いから白をえらんだのです ―奈良少年刑務所詩集― (新潮文庫)

犯罪加害者を生む社会的背景だとか、心の闇だとか、難しいことを言うつもりはありません。どんな人にでも先入観なく読んで欲しい。僕がここに入らなかったのは単なる偶然かもしれない。読み進むうちに何故だか童心にかえり、両親に対する感謝を感じずにはいられない。ビタミン剤の様な一冊。まさかと思うかもしれないけど、読めば解ると思う。 空が青いから白をえらんだのです ―奈良少年刑務所詩集― (新潮文庫) 関連情報

寮美千子 絵本古事記 よみがえり──イザナギとイザナミ

日本の歴史の黎明期に生きていた人々のなんと豊饒なことか、人の生の根源といえばよいのかな、素晴らしい絵本です 絵本古事記 よみがえり──イザナギとイザナミ 関連情報

寮美千子 雪姫(ゆき)―遠野おしらさま迷宮

 遠野から太平洋側の釜石へぬける、いわゆる釜石街道の鄙びた峠道をはしっているうちに日が暮れた。人気のないうねうねとした山道を黙して走り続けていると、まるでじぶんがガリバーの国の古ぼけた硝子壜の底に閉じ込められたような心持になってくる。バイクのヘッドライトが曲がりくねった樹木の枝や、それを包む込む闇、そして濃密な草いきれと聞こえぬ囁き声までをも照射して浮かび上がらせるようだ。わたしは30年も昔に梨の木の下で神隠しにあい、そのまま人界果てた山中をさすらっているサムトの婆であったろうか。「物語」は、みずからのうちに眠っているのではないか。 柳田の著書のなかでわたしがいまも心を震わせてやまない話は、大正15年の「山の人生」の冒頭に記された残酷な一節だ。妻に先立たれた炭焼きの男が、ついに日々の糧すら行き詰った。ふて寝をして夕刻、ふと目覚めると、山中の小屋の入口で幼い子どもふたりが鉈を研いでいる。「お父さん、わたしたちを殺してください」と言って、枕木の上に頭を載せて横たわった。得もいわれぬ夕焼けの光を浴びて、男は鉈を振り上げる。そんな短い話だ。一説に拠れば、これは美濃の山村で現実に起きた一家心中未遂の事件の調書を当時、法務局の参事官をしていた柳田が目にしたもので、実際の話とはだいぶ異なっているともいう。また谷川健一氏などが対談で話しているように、ここに根底としてあるのは東北地方の悲惨な飢餓の問題であり、山をロマンチックな場所として思い描いていた柳田は、ついにその現実にまで届くことができなかったのではないか、との指摘もある。いわんや、「物語」とは、所詮はうちなる<鬼>をモノ語ることである。モノ語りはそのように、変容し、増殖し、さみしい<鬼>から<鬼>へと引き渡されていく。 若い身寄りのない娘が山深い遠野の曲がり家を相続し、もろもろの怪異とみずからの出自に遭遇する寮美千子氏の「雪姫 遠野おしらさま迷宮」は、さみしいけれど読後、妙にすがすがしい後味が口中に一粒、残る。それはモノ狂おしさのなかの純白か、さみしさの果ての清涼のようなものか。かつて赤坂憲雄は「遠野/物語考」(ちくま学芸文庫)の中で、「遠野物語」はふたたび遠野の地へ投げ返さなければならない、と書いた。******************************************* それでは『遠野物語』の可能性の鉱脈は、すでに掘り尽くされてしまったのか。逆説に聴こえるかもしれないが、そうではないと、わたしは思う。たとえば、遠野に生まれ育った一人の民俗研究者、菊池照雄の『山深き遠野の里の物語せよ』と『遠野物語をゆく』(ともに梟社)が、わたしたちの眼前に切り拓いてみせるのは、『遠野物語』という閉ざされた文学作品(テキスト)の向こう側に横たわる、息を呑むほどに鮮烈な、遠野の生きられた伝承世界の豊穣にして、深々と昏い闇を孕んだ時間−空間のひろがりである。それは遠野とかぎらず、この列島のあらゆるムラがかつてみずからの胎内に蔵していた、豊かな時間であり、空間であった。わたしには、ここから新たなる遠野/物語の世界への道行きがはじまる、という予感がある。 『遠野物語』はいま、列島のムラの代名詞としての遠野へと投げ返されねばならない。ムラの近代の終焉の季節に、最期の遠野/物語が数も知れず産み落とされなかったとしたら、宙吊りのまま埋葬された近代の屍のうえに、ただ空虚なだけの超・近代(ポストモダン)の楼閣が聳えたつことになる。そんなギリギリの崖っぷちに、わたしたちはいる。赤坂憲雄「遠野/物語考」(ちくま学芸文庫)******************************************* 「雪姫 遠野おしらさま迷宮」は、いわばこの「近代の屍」から現代へ、モノ語りを救い出した作品ともいえる。あるいは土地へ投げ返した「遠野/物語」を、もういちどみずからのうちに取り戻した、ともいえる。どちらも同じことだが。 モノ狂おしさを抱えながら、愉しんで読んだ。作者もきっと、愉しんで書いたに違いない。 雪姫(ゆき)―遠野おしらさま迷宮 関連情報




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