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ザ・シャウト さまよえる幻響 [DVD]

鬼才イエジー・スコリモフスキ監督が手掛けた奇妙奇天烈な異色ホラー/サスペンス・スリラー映画である（1978年作）。倦怠期を迎え始めた夫婦。そこに突然出現した異端者が入り込み、男女の奇妙な三角関係が始まる...。単に迷惑な男が出現し、幸せな暮らしを送っていた夫婦の生活を侵食していくという単純な物語ではない。＜本作は、ホラー映画に整合性や論理性、ストーリー性を求める御方や派手な特撮（SFX）を期待する人に不向きです。＞精神病院のクリケット大会にスコアラーとして参加したロバート（ティム・カリー）が、同じ任務を担当するクロスリーという男からある回想話を聞かされる。全ての出来事はクロスリーによってのみ語られているという形式で話が進む為、真偽の程は不明だというクセモノ作品である。異端者の男クロスリー（アラン・ベイツの怪演）という特異な人物設定が強烈である。浮浪者の様な胡散臭さを持つラスプーチン・スタイルで登場。狡猾、老獪で厭らしく、叫び声だけで人を殺せる特殊能力を18年間掛けて習得したという信憑性不明な魔術使いの奇人・変人である。妻レイチェルを演じるスザンナ・ヨークもなかなかの怪演ぶり。気さくで明朗な人妻から、クロスリーの妙ちくりんなエロ魔術に引っ掛かり、一方では子猫のように甘え、夫には粗暴に振舞う女狐（悪女）に変貌していく過程の描写が憎々しい限りである。妻を寝取られた男アンソニーを演じるのは、名優ジョン・ハート。気弱で優しく人に騙されやすい男を演じたら、右に出る者無しと言い切れるほどの適役である。＜「10番街の殺人」（70）でも妻を殺されたあげく濡れ衣を着せられ絞首刑、本作の後「エイリアン」（79）では最初の犠牲者ケイン役で、胸を突き破って飛び出すエイリアン幼虫のショック場面で有名、「エレファントマン」（80）では特殊メイクを施してジョン・メリックを熱演。＞〜ここから、ネタバレ含む、ご注意を。〜本作は、クロスリーの回想が虚言なのか、それとも真実なのか、観る側を翻弄させ、想像力を掻き立てられる展開に引き込まれる作風である。論理的整合性は求めるべきではないと思う。だから、好みが分かれる映画である。まず、人妻と浮気を始めたばかりのアンソニーという自分勝手な男の姿が描かれている。その現場を知っているクロスリーは、レイチェルをアンソニーから、あっさりと寝取ってしまう。今度はクロスリーと浮気を始めるレイチェルという自分勝手な女の姿が描かれる。魔法を掛けられたように夫の目の前で不倫を見せつけるレイチェルの奇行や、奪われてから改めて妻への愛に気が付く愚かなアンソニーの「心の空疎」を突いてきた展開は、ある種の警鐘が暗示されている。特定の男から女を奪い、その女を魅了させてしまうだけの力を保持しているクロスリーという異端者を間に挟み、愛とは壊れやすく脆い、愛は白黒をはっきりとつけられない、愛は哀しい幻影に過ぎないという虚実を織り交ぜる手法を使っているようにも思える。前衛音楽家であるアンソニーの音を空疎だと、クロスリーは挑発する。周囲の生物を一瞬にして殺める叫びを持ったクロスリーの「生命を脅かす音」と異なり、アンソニーは自宅に籠ってミキシングを施し、自らの手で鳴らした音にしか興味はない。然も、妻でさえ無関心な「自己満足の音」でしかなく、教会のオルガン奏者としてのアンソニーの職務上の音楽は、ミサや葬儀に参列した不特定多数の民衆の心に響くという皮肉なものであった。クロスリーがアンソニーを砂丘に連れ出し「叫び」を披露する場面は強烈・圧巻。耳栓をして臨んだアンソニーも砂漠の傾斜を転げ落ち、暫しショック状態に陥る。これは「叫び」の恐怖だけでなく、砂丘の中では、様々な動物や人間は自らの意志や力では、どうにもならない無力な存在であると思い知らされる光景である。序盤から砂丘をジグザグ歩行する謎の怪人の姿を始め、砂丘で転寝する夫婦の光景、砂丘に人間の魂の分身である石を埋めたり、何かと本編では砂丘が頻繁に描かれている。砂丘を歩くと足跡が残ることから、人生において一体何が残っているのか、精一杯今を生きて来たのか、やり残したことはないのか、砂丘を生命（人生）の源と捉えているようである。ここにもスコリモフスキの隠された風刺的なメッセージを感じさせる。観る側に自分の人生を振り返ることを示唆していると思う。尖った象牙やサンダルの留め具、横線の入った石、倒れやすい自転車など、不安を掻き立てる不穏な小道具を効果的に使っている。レイチェルが全裸になり、四つん這いになって動く姿が、突如モノクロ映像に変化して、壁に掛けられた絵と全く同じ構図になる場面は不気味である。周囲の様々な音を集めた聴覚的空間の演出にも拘りが見られる。話が終わる頃、激しい豪雨の中で、突然訪れた悪夢のような惨劇は複雑怪奇な余韻を残す。冒頭の場面が繰り返されるラスト場面では、はっきり白黒をつけていない描写であり、観る者の判断に任せる演出手法だ。スコリモフスキの演出は、観る者の知覚の観点や視野を攪乱させ、判断がつかない宙吊りの状態に置く。主人公の身に起る予期せぬ人との出会い、偶発的な出来事が生起し、エピソードを積み重ねていく構成である。本作では、真の正体や過去の来歴が丸で掴めない謎の人物設定が見られる。現実と虚構や主観的な記憶と幻想、尚且つ悪夢などが複雑に絡み合い、真実が最終的に一体何であるか、確定し難い高度な自由間接話法を追求している。本作には、一般的なホラー映画のような怖さは感じないであろう。殺人鬼に刃物を突き立てられる「肉体的恐怖感」は無い。「音響ホラー」と言われているが、効果音に迫力はあるものの、視覚的にあまり怖さはない。では、ホラー要素は乏しいのか、否である。恐怖の種類が違うのだ。本作は「喪失感の恐怖」を描いた作品である。詰り、「精神的恐怖」に分類される。大切な人や物を失った喪失感から来る恐怖心で、自分自身を見失うこと、自分が自分でなくなる恐怖である。妻を奪われたアンソニーの徐々に精神が破壊される姿、レイチェルの場合は不倫相手を手放すことへの恐怖心、クロスリーは常に自分が否定されるのではという不安や恐怖を抱えている。これらは、登場人物の視点から見た恐怖であり、観る側の感受性で作品のイメージが変わるのである。 ザ・シャウト さまよえる幻響 [DVD] 関連情報

玩具とデザイン アトリエ ニキティキとトイメーカーの歴史

初心者もプロも、木のおもちゃを愛する全ての人にとって、ためになる本。 玩具とデザイン アトリエ ニキティキとトイメーカーの歴史 関連情報

人間の分際 (幻冬舎新書)

この本は曽野さんが過去に出版した著作を出版社に関係なく抜粋し、編集したものです。私も本が届いた時には、「えっ」という思いをしました。とはいえ、曽野さんのすべての本を読んでいるわけではないので初めて知ることも多く、そういう意味では「新作」と同じようなものかもしれません。内容の一部にはなるほどと思うこと、ためになったと感じるものもありました。とはいえ、やはり何か釈然としない、気持ちのしこりが残ります。それはたぶん、「私は曽野さんが今、何を感じ、何を伝えようとしているのか知りたかったのであり、過去の主張を知りたかったわけではない。」からです。もし先に本屋で内容を確認していたら、こんな思いをしなかったのになと感じました。内容自体は否定しません。今悩んでいたり、何かに苦しんでいて、突破口を探している人にとっては、その人の助けになるかもしれないので、曽野さんの著作が初めての人にはいいかもしれません。うつ病などで苦しんでいる人には、曽野さんの話に救われた気持ちになるかもしれません。また言いにくいことも、あえて堂々と主張する姿勢は爽快でもあります。しかしやはり編集本なら、本の最後の「出典著作一覧」に小さく明記するのではなく、そうであると分かりやすく明記すべきで、また値段も相応にすべきだと思います。幻冬舎さん。こういう商売のやり方は、逆に読者を遠ざけることになりはしませんか。 人間の分際 (幻冬舎新書) 関連情報

ニコ動より転載 名曲です.